[スペースシャトルの通信を担当する]TDRS衛星▣テーマのある人工衛星物語-(8)▲(図1)TDRS衛星ⓒ スペースシャトルは米航空宇宙局NASAで開発した宇宙発射体で、英語ではスペースシャトル(Space Shuttle)またはSTS(Space Transportation System)と呼ばれています。これまで開発されたすべてのロケット発射体が再利用が不可能な使い捨てであるのに比べ、スペースシャトルは燃料タンクを除いた残りの部分、すなわち軌道線と固体補助ロケットは再利用が可能だという長所があります。 2003年2月1日に発生したコロンビア号爆発事故があるまで、スペースシャトルは地上と国際宇宙ステーションISSの間を行き来しながら各種物資と乗務員を運びながら多くの活動をしてきました。スペースシャトルは1981年4月から運航を開始しました。 スペースシャトルが宇宙に登って留まる高度は、地面から約200キロ~400キロです。 スペースシャトルの主な目的地である国際宇宙ステーションの高度も380キロメートルほどです。スペースシャトルの飛行高度が380キロなら、このスペースシャトルが地球周りを一周するのにかかる時間は約1時間32分になります。 つまり、ほぼ42,500kmに達する距離を1時間半で矢のように通り過ぎていくことになります。 秒速で表すと7.7キロメートル、時速ですると約27,700キロメートルというものすごい速度です。さて、ここでしばらく考えてみましょう。 では、これほど速いスピードで飛行しているスペースシャトルと、地球表面に固定されている管制センターはどのように通信するのでしょうか?往復船は一時もじっとしておらず、地球の周りをぐるぐる回っているので、管制センターがある地点の真上を通る時だけ、ほんの少しの間通信することができます。 往復船がとても速く動いているので、管制センターとの直接通信は長くても10分程度しかできません。▲ (図2)管制センターとスペースシャトル ⓒそれに往復船の軌道はずっと同じ場所を通るようになっていますが、地球が自転しているので往復船が管制センター上空を通るときはせいぜい1日に2回しかありません。ということは、1日に2回、1回に10分ずつの通信だけが可能だということになりますが、スペースシャトルがすべきその多くの任務を管制センターの助けなしに乗務員同士で自主的に遂行しなければならないのでしょうか? 宇宙ステーションを作るその難しくて退屈な任務を管制センターとの連絡なしに一人でできるでしょうか。地球のあちこちに管制センターとつながる通信用アンテナをたくさん立てたらどうでしょうか? アンテナをたくさん立てるとしても、同じ理由でアンテナ1本あたり通信できる時間は10分しかないでしょう?そして往復船が飛行する経路に沿って通信アンテナを変え続けなければならないのですが、連結することも難しいし、滑らかに連結することは容易ではないでしょう。 決定的な理由として地球表面の70%が海ですが、その上にはアンテナを立てることができません。▲ (図3) TDRS衛星の運用概念 ⓒ このような問題を解決するためにNASAの専門家たちが考えた方法は、スペースシャトルと管制センターの間で通信連結をする中継器を設置することでした。 つまり、スペースシャトルでも常に見ることができ、管制センターでもいつも見ることができる位置に通信連結中継器を設置しなければなりませんでした。 そこがどこかというと、まさに静止軌道衛星でした。静止軌道衛星は赤道上空、高度約35、800kmに浮かぶ人工衛星のことです。 高度35,800kmにある衛星は地球を一周するのにかかる公転周期が地球の自転周期と同じ24時間です。だから地球から見ると固定されているように見えます。 そのため、地上にある管制センターでは通信中継器が設置された静止軌道衛星と1日24時間、いつでも通信ができます。こうした静止軌道衛星3つを120度間隔で広げて、3つの地点に配置し、アンテナを地球の方に向けておきます。 すると高度380kmで飛行中のスペースシャトルは静止軌道衛星より高度がはるかに低いので、いくら速く動いても静止軌道衛星と常に通信できる位置にあります。▲ (図4)スペースシャトルに乗せられ、発射待機中のTDRS衛星とIUSⓒ 静止軌道衛星が地球を囲んで3つ配置されているので、いつでも少なくとも3つのうち1つとは通信が可能です。 それに静止軌道衛星同士の通信が可能なので、スペースシャトルが管制センターと地球の反対側にあっても、2つの静止軌道衛星を経て通信が可能になります。このような概念と必要性から登場したのが、アメリカのTDRS(Tracking and Data Relay Satellite)静止軌道衛星です。 TDRS衛星は、本衛星と予備衛星を合わせて計6つ同時に作動するため、そのすべてを合わせて言う時はTDRSS(TDRS System)と呼びます。 TDRS衛星を韓国語で読むときは、「TDRS衛星」あるいは「ティドレス衛星」とも読みます。TDRS衛星は、スペースシャトルと同時に開発が進められました。 スペースシャトルのスムーズな任務遂行のためには、通信を中継してくれる衛星が必要だったのです。 TDRS衛星を軌道に乗せた発射体もやはりスペースシャトルでした。 全部で6つからなるTDRS衛星シリーズの1号機は、1983年4月4日から9日までのスペースシャトルの6回目の飛行で宇宙軌道に乗せられました。▲ (図5)太陽電池パネルとアンテナを折りたたんだ状態のTDRS衛星ⓒ スペースシャトルからTDRS衛星のような静止軌道衛星を打ち上げる際には、IUS(Inertial Upper Stage)という名前の補助ロケットが必要です。 その理由はTDRS衛星が登らなければならない高度はなんと35,800kmにもなるのに対し、スペースシャトルの高度は数百kmしかないからです。そこで静止軌道の高さである35,800kmまで衛星を乗せるための補助ロケットであるIUSをTDRS衛星の下の部分に装着した後、衛星とIUSを一度にスペースシャトルに乗せて宇宙に上がるのです。IUSはそれ自体が2段型固体ロケットです。(図6)を見ると衛星とIUSが宇宙往復船から徐々に分離して出てくる姿が見られます。(図6)で上の六角形の胴体がTDRS衛星で、下の白い円筒がIUSです。▲ (図6) スペースシャトルから分離中のTDRS衛星とIUSⓒ スペースシャトルから分離した後、往復船から安全な距離まで離れた後、IUSの1段ロケットエンジンが点火されます。 そうすると衛星はIUSとともに静止軌道に向かって上がりますね。 静止軌道である高度35,800キロメートルに達すると、IUSの2段エンジンが点火され、衛星は円形静止軌道にとどまることになります。2番目のTDRS衛星は1986年1月に発生したチャレンジャー号爆発事故の際に消えてしまいました。 今から18年前の1986年1月28日、スペースシャトルチャレンジャー号の打ち上げから73秒後に燃料漏れによる爆発で往復船全体が破壊され、搭乗者7人全員が死亡する惨事がありました。 当時、往復船の貨物室にはTDRS2号衛星とスパルタンという名の低軌道通信衛星が載っていました。▲ (図7) スペースシャトルチャレンジャー号爆発の光景 ⓒ チャレンジャー号事故後、数年が経過した後、3号から6号までの4つのTDRS衛星は約1年おきに順次スペースシャトルを利用して打ち上げられました。 6号の打ち上げから2年後には破壊された2号衛星に代わって7号衛星が軌道に乗るようになり、初めて全体TDRSSが完成します。TDRS衛星には、通信中継の他にもう 1 つの重要な任務があります。 TDRSの「T」が意味する「Tracking(追跡)」機能ですが、スペースシャトルまでの距離を毎瞬間測定し、往復船が予定されている軌道を回っているかを点検する機能です。 水の温度を確認するために温度計を見るように、スペースシャトルでは毎瞬間TDRS衛星までの距離を測定して、きちんと軌道に乗っているかを判断します。現在、TDRS衛星システムは新型衛星への交換作業を進めています。(図8)にあるのが新型衛星の姿ですが、左右に長く伸びた四角いのが太陽電池パネルです。 上下についている丸いのが、低軌道衛星との通信を行うためのアンテナです。この通信アンテナは、低軌道衛星の動きに沿って上下左右に動くようになっています。 新型TDRS衛星は全部で3つが上がりますが、現在2つはすでに打ち上げられています。 新型衛星は、スペースシャトルではなく、すべてアトラスロケットによって打ち上げられました。▲ (図8)新型TDRS衛星 ⓒ今までTDRS衛星について簡単に説明しました。 スペースシャトルを例に挙げましたが、これまで説明したTDRS衛星のすべての機能は必ずしもスペースシャトルに限られるわけではありません。 その他にもハッブル宇宙望遠鏡、紫外線宇宙望遠鏡、低軌道諜報衛星など通信やデータ中継が必要なすべての低軌道衛星がTDRS衛星の支援を受けています。矢のような速度で東西南北の全空を飛び回るスペースシャトルと、同じ場所に固定されている管制センターをつなぐTDRS衛星。人々の間にもこんな人が多いといいですね。 どんな組織でもせっかちな人ととてものんびりしている人の中間で、二人の間をうまく連結する役割をする人が多いなら、その構成員が性格の違いで争ったり、仕事を間違えることはかなり減るでしょう?

